共有者全員持分全部移転とは?所有権移転との違いや費用について解説

登記費用

更新日:2021-08-06
売買や贈与などの登記手続きを司法書士に依頼すると、登記費用の見積書を渡されます。

この見積書の項目に、「共有者全員持分全部移転」と記載があったという方もいらっしゃるかと思います。

普段の生活では使わない言葉ですので、どのような手続きなのか、一見するとわかりづらいかもしれません。

共有者全員持分全部移転登記って何?所有権移転登記とは違うの?
共有者全員持分全部移転登記の費用ってどの位かかるの?

この記事はそのような方向けに書いています。

こんにちは、司法書士の樋口@toruhiguchiです。
私は東京都新宿区に本社を構える司法書士法人リーガル・ソリューションの代表司法書士で、不動産登記、不動産に関する訴訟手続きをメインに取り扱っています。

司法書士 樋口亨
司法書士 樋口亨
今回は、共有者全員持分全部移転の登記について解説しています。

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共有者全員持分全部移転とは

what?

共有者全員持分全部移転とは、物件を共有している人全員が、それぞれ持分の全部を、同じ理由で同じ人に移転する場合に行われる登記手続きです。

例えば、AB夫婦とCとの間で、ABの共有名義となっている不動産についての売買がされた場合などです。

不動産を共有しているかどうかは、不動産の権利を譲渡する側で判断しますので、権利を取得する側については一人か複数かは関係ありません(下の図のイ、ウ)。

共有者のうち一部の人しか関与していない場合には、共有者全員持分全部移転登記ではなく、別の登記を申請します(下の図のオ)。

また、共有者全員の持分全部が移転した場合でも、別々に契約をした場合(登記の原因日付が違う場合)などには、共有者全員持分全部移転登記ではなく、各持分毎に分けて登記申請することになります(下の図のエ)。

図表1

所有権移転との違い

両手を広げる女性

所有権移転と異なるのは、権利を譲渡する側が一人か複数かという点だけです。登記申請の関係者が増えるだけで、それ以外の、登記の原因や登録免許税の部分には一切違いはありません

なお、手続き自体は共有者全員持分全部移転となる場合であっても、見積書の項目には「所有権移転」と記載している司法書士事務所もあります。

共有者全員持分全部移転という聞きなれない言葉を使うより、手続きの内容をわかりやすい表現にした方が、一般の方が理解しやすいためだと思われます。

登記手続きにかかる費用

電卓とノート

登記手続きにかかる費用としては、大きく分けて登録免許税と司法書士報酬に分かれます

登録免許税は、登記を申請する際に国に納める税金です。

共有者全員持分全部移転の登記を申請する場合の登録免許税は、次のように計算します。

(不動産の固定資産評価額) × (税率) = (登録免許税)

税率は、物件がどのような理由で譲渡されるかによって変わります

売買であれば、土地については1.5%(令和5年3月31日まで)です。
建物については原則として2.0%ですが、一定の要件を満たせば0.3%になります。

贈与等の場合は、土地も建物も2.0%です。

登記の原因が同じであれば、固定資産評価額も税率も同じですので、所有権移転と共有者全員持分全部移転とで、登録免許税が変わることはありません。

手続にかかる司法書士の報酬は、一般的に3万円から8万円くらいです。こちらも所有権移転の場合と同じ金額にしている事務所がほとんどかと思います。

所有権移転登記について詳しく知りたい方は『不動産購入時の所有権移転登記って何?具体的な費用と報酬の相場について解説』をご覧ください。

売買の場合の登記申請書

登記申請書

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【事例】
AとBは、地番「1番2」の土地を、それぞれ持分2分の1で共有している。
令和3年4月15日、A、B及びCは、1番2の土地についての売買契約を交わし、Cは手付金を支払った。残りの売買代金は、令和3年5月31日に支払われた。

この事例で同日中に登記申請する場合の登記申請書と、登記完了後の登記記録は次のようになります。

(登記申請書の記載例)

登記申請書例

(完了後の登記記録例)

登記完了後登記記録

売買の場合の添付書類

必要書類

登記原因証明情報

登記原因証明情報が必要となります。

登記原因証明情報とは、なぜ今回の登記を申請するのか、その理由となる事実や法律行為を記載した書類です。
売買の場合には、売買があったことを示す売買契約書と、代金の受け渡しがあったことを示す領収書とで、登記原因証明情報とすることができます。

しかし、この場合、売買契約書や領収書の原本を法務局に提出する必要があります。
登記が終われば返してもらうことができますが、大事な書類を提出することに抵抗がある方が多いかと思います。

そのため、司法書士が手続きをする場合には、別途、「登記原因証明情報」というタイトルの書類を作成することが一般的です。

下の図は、当事務所で作成している登記原因証明情報の例です。

登記原因証明情報

①登記の目的

AとBが2分の1ずつ持っている土地を、一つの契約でCに売ったので、共有者全員持分全部移転となります。

②登記の原因

実際に権利が移転する日と、移転する理由を記載します。本来、売買契約は口約束だけで成立し、契約成立時に所有権が移転するのが原則です。しかし、実務上は、契約時に手付金を支払い、後日残代金を支払ったときに所有権が移転するという特約を付けることが多いです。

事例では、令和3年5月31日に残代金の支払いがされていますので、原因日付は令和3年5月31日となります。

③当事者

登記の名義を手放す人を「義務者」、新たに登記の名義人となる人を「権利者」と言います。今回は、買主であるCが権利者、売主であるAとBが義務者となります。

④登記の原因となる事実又は法律行為

権利が移転するに至った経緯を記載します。契約を交わした日と、実際に所有権が移転する日とがずれる場合には、㋐売買契約が締結されたこと、㋑特約があること、㋒残代金が支払われたこと、を記載します。

⑤当事者の署名捺印

申請人となるA、B、C全員に、署名と捺印をしてもらいます。

なお、最低限、義務者分の登記原因証明情報があれば登記は通りますので、義務者からしか署名捺印をもらわない司法書士事務所もあります。

登記原因証明情報について詳しく知りたい方は『登記原因証明情報とは?』をご覧ください。

印鑑証明書

義務者であるAとB、それぞれの印鑑証明書を添付します。印鑑証明書は、登記申請日から3か月以内のものが必要です。

登記申請書に押印した印影と照合するためです。

司法書士が手続きをする場合には、義務者から、実印を捺印した委任状をもらいます。法務局は、委任状に押された印鑑と、提出された印鑑証明書の印影とを照合し、両者が一致していれば登記の手続きを進めます。

ここで、印鑑証明書に記載されている住所氏名は、登記簿上の住所氏名と一致していなければなりません。引越しや結婚などで住所や氏名が変わっている場合には、移転登記の前に住所氏名の変更登記を申請する必要があります。なお、住所氏名の変更登記と移転登記とは、同時に申請することが可能です。

住所証明書

登記が完了すると、新たにCの住所と氏名が登記簿に記録されます。ここに記録される住所を証明する書類として添付するのが、住所証明情報です。具体的には、住民票、戸籍の附票、印鑑証明書などがこれにあたります。

登記されるのは、添付された書類に記載されている住所・氏名です。以前住んでいた住所や、これから住民票を移す予定の住所を登記することはできません。

登記識別情報(登記済証)

一般に権利証と言われているものです。以前は「登記済(権利)証」というタイトルのものでしたが、平成17年3月から様式の切り替えが順次なされ、現在では「登記識別情報通知」というタイトルの書類になっています。

売買の際には、義務者全員の登記識別情報(登記済証)が必要になります。

同時に共有名義を取得した場合、登記済証であれば、共有者分が一つの冊子にまとまっています。これに対し、登記識別情報の場合は、物件ごと、人ごとに分けて発行されます。

今回の事例では、Aの分とBの分、合計2つの登記識別情報が必要です。

登記済証について詳しく知りたい方は『不動産所有者の証!権利証とは?』をご覧ください。

この記事の筆者

司法書士 樋口 亨(@toruhiguchi

東京司法書士会所属 登録番号7208号
司法書士法人リーガル・ソリューション 代表司法書士。
行政書士事務所リーガル・ソリューション 代表行政書士。
不動産仲介営業マン時代に司法書士試験合格。
都内の司法書士法人に転職し経験を積んだ後、司法書士法人リーガル・ソリューションを設立、同社代表社員就任。
開業以来、不動産登記手続き、不動産に関する訴訟手続き(賃貸トラブル、共有物分割請求、時効取得等)に特化。
保有資格は、司法書士、行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者、競売不動産取扱主任者。

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